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熊本家庭裁判所 昭和35年(家イ)69号 審判

申立人 中代朝彦(仮名) 外一名

相手方 白川クミ(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人等は、相手方は申立人等に対し白川稔(昭和一八年一二月○日生)を速に引渡す旨の調停を求め其の実情として述ぶるところを要約すれば申立人等は昭和一三年五月○日婚姻した夫婦で昭和二一年六月当時は満洲国奉天市大和区○○町○○番地満鉄社宅六-○○○号に居住していた。其の頃申立人夫婦間には長男宏(昭和一四年九月○日生)二男慎二(昭和一七年一月○日生)と三男泰(昭和一九年一一月○○日生)の三児があつたが昭和二一年六月一二日午後六時頃二男慎二が突如行方不明となつたので申立人等は百方搜索していたところ最近に至り相手方が稔と名付け昭和一八年一二月○日嫡出でない子として出生したとして昭和二八年四月六日熊本市長に対し届出で同居している上記稔は相手方が分娩した子ではなく全く申立人等の二男慎二と同一人であつて申立人等の二男慎二の行方不明は相手方と其の実父白川久二の誘拐に基くことが判明したので申立人等は上記の事実に基き相手方に対し稔事慎二の引渡を求むるけれども相手方は上記の事実を否認し飽くまでも上記稔は自己の分娩した子であつて申立人等の二男慎二ではないと主張し引渡に応じないので本件調停申立に及んだと云うのである。

仍て案ずるに申立人等が相手方に対し引渡しを求むる稔は相手方が昭和一八年一二月○日嫡出でない子として分娩したとして昭和二八年四月六日熊本市長に対し其の旨の出生届出を了し、尠くとも右届出の日より今日まで、相手方は戸籍簿上は勿論事実上も上記稔の親権者として同人と同居し監護教育し来つたことは申立人等の本件申立の全趣旨から推しても動かせないところである。然らば申立人等が相手方に対し求むる所謂稔事慎二の引渡は、調停に依ると審判に依るとを問わず其の前提として相手方と稔間に全く親子関係がないこと及稔と申立人等の二男慎二は同一人であつて申立人等に同人に対する親権の存することの確定を得て然る後始めて之を為し得べき筋合である。従つて申立人等が敍上の事実に争のあるまま之を確定せずして直に本件申立に及んだのは失当と認め主文の通り審判する。

(家事審判官 甲斐寿雄)

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